東栄町にある森に入って、木々を観察する青木さん

ビューティーツーリズム推進、情報発信など

  • 愛知

愛知県 東栄町 地域おこし協力隊 現役隊員(任期:2020年6月〜)
青木彩乃さん

不思議な縁に導かれ、東栄町での活動を開始

メイクアップアーティストを目指し、名古屋市で、ヘアメイクサロンなど美容業界で勤めていたという青木彩乃さん。

「昔から開発途上国の課題解決に関心があり、大学の在学中にピースボートで世界を一周しました。80日間で約20カ国を巡ったのですが、実際に開発途上国を訪れ、その現状を目の当たりにして『自分の手で何かを変えられるほど貧困問題は甘くない』と無力さを痛感しました。」

その旅の最中、船の中でファッションショーが開催された。モデル、観客、そしてメイクアップをするのも全て旅客だ。

「旅で立ち寄ったカナリア諸島のラス・パルマスで購入した50色ほどのメイクのパレットで、初めて自分以外の人にメイクをしてあげたら、とても喜んでもらいました。その経験がずっと心に残っていました。」

青木さんはその経験から、「人を輝かせることが自分の喜びにもつながる」ことに気づいたという。そこから、大学卒業後にメイクアップスクールへ通い、約8年間メイクの仕事をして経験を積んできた。そんな青木さんには、同じ旅で発見した目標があったという。

「南米のグアテマラを訪れた時に出会った『ウィピル』という鮮やかな民族衣装がとても素敵でした。女性の自立支援活動にも興味があったので、現地の女性たちが作る手織りや刺繍をアレンジして日本で販売し、作り手の人たちが豊かになるような活動ができないかと思いました。」

青木さんは自分の気持ちが本物かどうかを確かめるため、その後もグアテマラを訪れて様々な場所を見て回るなどしながら、活動への思いを深めていった。

「グアテマラで頑張ろうと気持ちが固まり、実行に移そうとしたときに新型コロナウイルス感染症拡大の影響で海外へ行くことが難しくなりました。そうしたときに、たまたま求人で、東栄町の地域おこし協力隊の募集を知りました。その募集で東栄町が『美を通した地域づくり』をしていることを知り、挑戦してみたいと思いました。母と一緒に東栄町を訪れた際には、観光協会の方からも『ぜひ来て欲しい』と声をかけていただきました。」

そこからは話がとんとん拍子で進んだ。東栄町は青木さんにとって特別な縁がある場所だったという。

「実は、母も1年間ボランティアとして、東栄町にほど近い旧富山村(現・豊根村)で山村留学のサポート活動をしていました。そこで教員をしていた父と出会ったそうです。不思議な縁を感じましたし、自分が求められているところで挑戦してみたいという気持ちが芽生えました。」

ビューティーツーリズムに関わる仲間たちと(真ん中が青木さん)

イベントを仕掛け、ビューティーツーリズムを促進

青木さんの協力隊としての主な活動内容は、東栄町が推進するビューティーツーリズムの発信だ。東栄町はファンデーションの原料となる「セリサイト」という鉱物を日本で唯一産出している土地でもあり、この資源の活用に力を入れている。

「1年目は地元の方や観光客の方と一緒に、このセリサイトを活用したミネラルファンデーション作りをする『手作りコスメ体験 naori』の講師などを務めました。また、ビューティーツーリズムの促進ということで、ブランドロゴを作ったり、コンセプトを固めたりと多岐に渡ってさまざまな業務を担当しました。」

2020年11月には「BEAUTY TOURISM WEEK」を実施。五感で自然や文化を感じ、自分の中にある本来の美に出会う体験ができるという5日間のイベントだった。

「30年前に使われていた旅館でのヘアメイク体験や森林散策、地域の花祭をテーマにした切り絵を地元の人に教わる体験など、様々なイベントを実施しました。また、飲食店の方とオリジナルメニューの考案にも取り組みました。思いを形にしていくプロセスがとても楽しかったです。これまで経験したことのないことばかりで、手探り状態ではあったのですが、色々な事業者さんや、ビューティーツーリズムに賛同してくれる大勢の方たちを巻き込んで、やり切った気持ちでした。」

こうして無事に1年目を終えた青木さんだが、2年目に入り、燃え尽き症候群に陥ってしまったという。

「イベントはいい形で終わったのですが、それまで駆け抜けてきた疲れからか、1年目を終え、ふと卒業後のことまで考えたときに、今後どうすればいいのかと悩んでしまいました。」

一時はこのまま辞めてしまおうかとまで思い詰めた青木さんだったが、新たな目標を見つけたことで思いを新たにした。

「最終的にはイベントの時に感じられた東栄町の伝統文化や神秘的な空気感を、まだ知らない人にちゃんと届けたいなと、改めて思いました。私自身が惹かれた綺麗な川や、今後も自分が残していきたいと思っている文化や自然の魅力を発信することを、自分の中で突き詰めてみようと覚悟を決めました。」

元旅館でのヘアメイク体験。ヘアメイク時代の仲間も呼んで行った(写真手前メイクをする青木さん)

燃え尽き症候群から立ち直り、森林アロマで新しい試みを

イベント終了後に抱えた思いから深く悩んでいた時に力になってくれたのは、周りの人たちだった。

「思い詰めて辞めたいと観光協会の方に伝えたときは、『一人でいろんな負担を背負わせてしまって申し訳なかった』と言ってくださいました。町役場の担当の方にも、自分の悩みを打ち明けたところ、『あなたがやりたいことをやったらいいんだ』と言ってもらいました。思い返せば着任した当初から同じ言葉をかけてもらっていました。地域おこし協力隊のことをあまり知らずに飛び込んだため、その名に相応しい活動をしなければいけないといつの間にか自分で追い込んでしまったようです。また、ほかの協力隊の方に会う機会もあって、協力隊の活動内容も十人十色なのだと気付きました。自分はこれまで決められた範囲内で頑張ることは得意でしたが、一から自分で決めて物事を進めることがはじめてだったので、そこに怖さがあったのだと思います。」

そうして思い悩んだ後に、自分の気持ちを見つめ直して始めたのが森林アロマという新しい活動だった。

「そもそもこの森林アロマは、林業専門の高校に通う女子生徒から『スギとヒノキの間伐材を使って精油を作ったので何かに活用できないか』という話をもらったことがきっかけです。地域の素材を使って化粧品を作りたいという思いもありましたし、東栄町は森林面積が町全体の9割を占めるという特色を活かして、スギやヒノキ、クロモジの葉を蒸留して化粧水を作るワークショップを催してみてはどうかと考えました。私自身も、森の植物から精油をつくることや、蒸留についても勉強しました。その甲斐もあって、東栄町の樹木を蒸留して活用する森林アロマのワークショップが軌道にのり、2年目の活動の中心になっています。」

地元の人たちがモニター体験する様子

森林アロマブランド「kiyomari」の製品開発にも注力

こうして青木さんの地域おこし協力隊としての活動は、独自に生み出した森林アロマが中心になった。

「3年目からは観光協会から森林組合に異動して活動をすることになります。森林アロマという林業にも深い関係のある事業を始めるなら、森林組合にいた方が動きやすいだろうと、観光協会の方と町役場の担当者の方が森林組合の方に話をしていただいてまとめてくれました。森林アロマのイベントは、町内でモニター体験を20回ほど実施し、今では名古屋のイベントなどにも呼んでいただいています。また、森林アロマ商品の「kiyomari」という製品開発も進め、数量限定で販売して販路を開拓しているところです。」

これまでは海外ばかりに目が行っていたという青木さんだが、東栄町で暮らすことで、日本の地域の伝統文化や自然の良さを改めて感じたという。

「地域おこし協力隊になっていなかったら、地域に目を向けることもなかったと思います。今後は商品開発やワークショップを続けていくのと同時に、林業の現場の情報発信もできればと考えています。林業の世界は、なかなか外からは見えにくい面があるので、わかりやすく伝えていきたいです。」

東栄町に、自分の居場所を見つけた青木さん。最後にこんなメッセージをくれた。

「これから地域おこし協力隊に応募する方は、ぜひ、現地に行ってみることをおすすめします。土地と自分との相性がかなり大事だと思うので、現地でフィーリングが合うかを確認してみてください。〝これがやりたいからここにきた〟という軸を自分の中にしっかりと持っていれば、そこで出会いが広がって、いい方向に進んでいくと思います。」

左)間伐材を森林アロマに活用する、林業のメンバーと 右)青木さんが手がける森林アロマ商品の「kiyomari」

Profile

愛知県 東栄町 地域おこし協力隊 現役隊員
青木彩乃さん

1991年生まれ。名古屋市で約8年間、メイクアップアーティストを目指し、美容業界に勤める。その後、東栄町が発信するビューティーツーリズムを推進する地域おこし協力隊に着任。東栄町ブランドの商品開発に力を注ぐ一方で、森林アロマのワークショップもスタートし、ますます活躍の幅が広がっている。