インターネットラジオの取材をする久野さん

インターネットラジオの配信、空き家の活用及び移住促進

  • 佐賀

佐賀県 嬉野市 地域おこし協力隊 現役隊員(任期:2021年5月〜)
久野裕子さん

新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに生き方を考え直す

大阪にある公共施設などを設計する建設コンサルタント会社で働いていた久野裕子さん。

「公園の利活用のコンサルタントをしていました。地域連携や子どもたちの環境学習の立案、地域の人が公園を訪れてくれるような企画を考えるソフト面での開発や現場サポートが主な業務でした。仕事はとてもやりがいがありましたが、働く中で『まちに住んでいる人ともっと直接触れ合い、誰もが楽しく暮らしていくためのサポートができる仕事がしたい』と思うようになりました。」

そうした思いを実現させるために久野さんは、子どもや保護者と直接触れ合える仕事として保育士を目指し、東京で保育士としての人生をスタートさせた。東京での暮らしは、楽しく充実した毎日だったという。

「練馬で暮らしていたのですが、東京でも自然が多いところで、落ち着いた生活を送っていました。そんな中、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、一時的にリモートワークとなり、1ヶ月ほど外出を控える生活を過ごしていました。その際に息抜きがしたいと思い近くの児童公園に行くと、みんな同じことを考えていたのかたくさんの人がいて、密集していました。そんな状況では公園を利用することもはばかれ、誰にも会うこともできなくて、孤独感を覚えました。東京は、人や情報が集まる場所なのに、その楽しみを味わえない状態で、今後長く住み続けることを想像できなくなってしまいました。」

当時交際中だった現在の夫は北海道で働いていたため、なかなか会うことができない。そこで久野さんは「この機会に結婚して地方移住しよう!」と決断。住む場所は夫の出身地である佐賀県へと決めた。そして、佐賀県での仕事を探し始めたとき、以前、目にした地域おこし協力隊を思い出したという。

「さっそく協力隊の募集情報を検索してみました。その中に嬉野市がインターネットラジオの配信という活動内容で募集しているのを見つけ、興味を持ちました。さっそく面接を受け、無事に採用が決まりました。」

同時に夫も北海道から九州支社への転勤が決定。こうして久野さん夫婦の嬉野市での新生活が始まった。

インターネットラジオは、チャレンジの場

「昔から、気分が沈んだ時にラジオをよく聴いていました。まるですぐそばで友達が話しかけてくれるような感覚になれるところがラジオのいいところです。」

久野さんはラジオ愛を胸に、地域おこし協力隊として、新しいことにチャレンジする毎日を送っている。

「色々とアイディアを考えたのですが、『暮らしの音』をラジオで流してみることにしました。これまで5回ほど配信した中の一つが小学生がうなぎの放流をするというイベントの様子です。嬉野市恒例のイベントで、地元の人たちが子どもにうなぎ放流の体験をさせるというものです。子どもたちがはしゃぐ様子や先生の声など、そのままの音を流しました。嬉野市ののどかな雰囲気や、子どもがのびのびと過ごす様子を感じてもらえたらというのが狙いです。これが好評だったので、今後は、お祭りの音や、おしゃべりをしているおじいちゃん、おばあちゃんの声など、いろいろな暮らしの音を配信していきたいと思っています。」

久野さんが配信するインターネットラジオ
ラジオのゲストに迎えたヨガスタジオを経営する峰松さん(左)と、空き家を改修して人が集まる場づくりをする中林さん(右)

移住や空き家に住む人の悩みを受け止め、支えたい

インターネットラジオ配信に加えて、空き家の活用・移住促進なども担当している久野さん。

「着任当初は、空き家や移住促進の情報発信については不慣れな点も多く、情報を求めている人にどのような内容を届ければいいのか悩みました。特に空き家に関しては、まったく知識がなかったので、まずは知ることが重要だと思い、市役所の空き家担当者の仕事にすべて同行させてもらいました。多いときは1日3回、週に3〜4回は現場に行きました。内覧の様子を見学したり、契約後のサポートではどのようにフォローをしているのかなど、色々と学ぶことができました。」

久野さん自身が移住を経験しているので、移住後、住まいや仕事などで悩む気持ちは誰よりも分かる。

「空き家については、改修費はいくらくらいなのか、DIYが本当にできるのだろうかという不安の声を多く聞きます。そうしたときに、たくさんの空き家を見てきた経験が役に立ちます。」

そのほかに、移住後の仕事に関する相談も多いという。そこで、久野さんは移住検討中の人に向け、様々な形で働く人を取材して、ラジオで発信することにした。例えば、カフェ経営者、実店舗を持たずにアクセサリーショップを運営している人、地域の情報発信をしている人、空き家を改修して面白い場所を作っている人など。そうした発信を通じて、嬉野市への移住を考える人が抱える不安をなるべく解消し、移住へのハードルを下げるのが目標だという。

ラジオと併行して発信しているSNSでは、暮らしのことをネタにするなど、読みやすい内容を心掛けている。

「移住イベントに参加したことや、実際に移住した人を取材してInstagramで発信したら、移住の相談がきたこともあります。市内の人たちも見ているよと声をかけてもらえて、ご縁も広がりました。」

移住イベントにて。嬉野市のブースを訪れる人の対応をする久野さん

周りの人に恵まれて嬉野市での生活を満喫

平日は協力隊の仕事、週末には温泉に出かけ、毎日、美味しい嬉野茶を飲む、という嬉野市での暮らしを楽しんでいる久野さん。充実した日々を送ることができているのは、周りの方の優しい配慮があるからだと感謝している。

「悩んだときにすぐ話せる環境を皆さんが作ってくれました。市役所では協力隊担当の方が隣の席なのですぐに仕事の相談ができます。また、週に1回、年齢の近い人や家が近い人、自治体の業務全般を分かっている人などと話す時間を設けてくれます。自分のためにここまで気遣ってくれるのかと正直、驚きました。また、県のサポートとして佐賀県の地域おこし協力隊ネットワークがあり、年4回ほど研修が実施されているので、同期の協力隊との交流もできました。他のまちでどんな活動をしているのかがわかりますし、みんな頑張っているんだなとすごく励みになります。」

嬉野市に住む同世代の人たちとの交流も多く、そこから生まれるアイディアもあるという。

「活動の中で知り合った人の中には子育て中の人たちも多く、窯業(ようぎょう)、旅館、お茶農家など家業を継いで頑張っている若手世代もいます。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で厳しい状況は続きますが、自分の住む町を子どもたちに愛してもらいたいと、みんなで力を出し合い、新しいことにチャレンジしていこうという人たちです。現在はその方たちと、自営業の家庭の子どもたちが店長になり、自分の家から持ち寄ったものを商品として売るという内容のマルシェイベントを企画しています。私自身、子どもとまちというテーマは以前から興味があったので、これからもアイディアを出して色々な機会を作っていきたいです。」

思い切って移住を決断し、嬉野市の地域おこし協力隊として新たな生き方を歩む久野さん。周囲と手を取り合いながらこれからの嬉野市をますます盛り上げていく。

佐賀県地域おこし協力隊サポートネットワークの研修に参加した時の様子
左)久野さんが信頼している市役所の担当者の方々 右)嬉野市の特産品である肥前吉田焼。若い世代が活躍中する窯元との交流から企画が生まれる

Profile

佐賀県 嬉野市 現役隊員
久野裕子さん

1988年生まれ。大阪府出身。大阪で公共施設などを設計するコンサルタント会社を経て、東京で保育士として働いていたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、地方移住を考える。夫の出身地である佐賀県への移住を考え、佐賀県嬉野市の地域おこし協力隊に応募し、2021年5月に着任。インターネットラジオの配信、空き家の活用及び移住促進業務を担当。